彼女達が仮の宿をとっている古ぼけた小屋に入ると、切れ長の涼やかな目をした年若の比丘尼が米を取り出し研ぎ始めた。江戸と違い白米だけを炊く習慣のないこの地方でこれは極めて贅沢だ。確かに雑穀より早く膳を出すことは可能だが、さすがに鶴蔵もいたたまれなくなる。だが尼僧達は嫌な顔ひとつせず旅人のために食事の準備をしてゆく。
babyguest820722
「ご飯が炊きあがるまでお待ちいただけますでしょうか。その間こちらをどうぞ。田舎のおかずですのでお口にあうか解りませんが・・・・・・」
looper122のblog
と、年かさの比丘尼に差し出されたのは大根の漬物だった。山中で塩が貴重品なのか塩気はやや薄かったものの、二人共遠慮無くばくばくと食べつくす。さらに凍豆腐に嫁菜を絡めた煮物も出された。江戸や上方の食事に比べたら質素極まりないが、それでも比丘尼達の心尽くしが嬉しい。そんな食事をしている間に、ようやく飯が炊きあがった。
Kissjuce
「お待たせしました。お口にあうかわかりませんが・・・・・」
ほんのりとした玄米の香ばしさと嫁菜の爽やかな青さが香る菜飯が鶴蔵と雪蔵の前に出される。
「ありがたい。恩にきます!」
nicbe的个人博客
そう言うと二人は一粒残さず雑穀飯を食べつくした。その食欲に比丘尼達は唖然とする。
「本当に助かりました。これはささやかですがお納めください」
れんじうぇ
鶴蔵は二朱銀を幾ばくか包み比丘尼達に渡す。それは彼女達の花代数日分に相当する額だった。懐紙に包んであるとはいえ、手触りでそれを察知した比丘尼達は顔色を変える。